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5-27 夜の話し合い 1

last update Last Updated: 2025-05-20 21:51:58

 20時――

 京極の億ションのインターホンが鳴った。モニター画面を見るとそこには帽子を目深に被った姫宮の姿がある。

「やはり来たか」

小さく呟くと京極は黙ってカギを開けると姫宮の正面の自動ドアが開いた。

「……」

姫宮は無言のまま、中へと入って行った。

「正人! 一体、どういうつもりなの!?」

開口一番、姫宮は京極をなじった。

「どういうつもりも何も……鳴海翔を少し揺さぶりをかけただけだが?」

「何が揺さぶりをかけただけよ……。正人のやってる行為は完全な脅迫よ。一歩間違えば犯罪になりかねないわ」

「そうか? 大げさだな?」

京極はコーヒーを淹れると姫宮に差し出した。

「……」

姫宮は珈琲を受け取ると一口飲み、ため息をついた。

「副社長に言われたのよ。このメールの出所を探って欲しいって……しかもこの私に。どう責任を取ってくれるの? このままでは私は秘書の仕事もを辞めざるを得ない……それどころか、もうあの会社にもいられなくなるかもしれない。そうなると正人、貴方に情報を流せなくなるわよ? それでもいいの?」

「何だ? 静香。お前が俺を脅迫するのか?」

京極は肩をすくめる。

「脅迫? 正人は私の言葉を脅迫と捕らえているの? 私は一般論を語っているだけよ?」

「そうか……」

京極はコーヒーを手にPCの前に座ると、姫宮がその後を追った。

「ねえ、正人……貴方最近おかしいわよ? やり方がエスカレートしているし、大胆な行動に出始めているわ。一体何をそんなに焦っているの?」

「焦っている……? 俺が?」

「ええ、そうよ。まるで朱莉さんを奪われたくない為に邪魔な人間を次々と排除しよとしてるようにしか見えないわ。あの九条琢磨と言い、安西航と言い……」

「そうだな……でも2人共、俺の思惑通り去って行ってくれた。なのに……」

京極はギリリと歯を食いしばった。

「……俺の予定では明日香と鳴海翔は愛に溺れ、それが鳴海会長の知る処となり、翔は失脚させられるはずだったのに……。朱莉さんには多額の慰謝料を取らせてあげる様に働きかけ、無事に離婚させたのち、明日香と翔の関係を世間に公表して鳴海グループのスキャンダルを世間にさらしてやろうと思っていたのに……! まさか2人して俺の思惑とは違う方向に進んでいくとは……とんだ誤算だった」

「何でも自分の思うように事が運ぶとは思わないことね。いくら人間観察に優
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  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   5-25 姫宮静香(挿話)1

     静香は京極家の双子の兄妹としてこの世に生を受けた。 母は名家の出身で、大企業の4人兄姉の末っ子であった。母は学生時代に美大に通う男性と知り合い恋人同士になったが、両親に兄姉達全員から激しい反対に遭い、卒業後ほぼ2人は駆け落ち同然で一緒になった。 売れない画家で貧しい暮らしを強いられたが幸せな暮らしをしていた。 一緒になって1年目に双子を妊娠し、正人と静香が誕生した。 そしてその頃から父は画家として売れ出し、少しずつその名声も地位も高まっていった。正人と静香が5歳の誕生日を迎える頃、ついに父は有名画家の仲間入りを果たし、自分の画廊も持てる程になっていた。弟子も何人か持てるほどになり、家族の暮らしは格段に良くなっていった。ところがその矢先、父は個展の帰りに交通事故に遭い、呆気なくこの世を去ってしまった。お嬢様育ちだった母は無力な存在だった。気付けば父の残した絵画は全て弟子達によって奪われてしまった。 さらに追い打ちをかけるような不幸が京極家を襲った。鳴海グループの息がかかったゼネコン業者が土地開発事業をする為に、父の残した画廊を買い取ったのだが、その名義すら弟子たちに書き換えられていたのだ。 弟子たちは京極家の財産を全て奪い去ると行方をくらまし、残されたのは父が生前加入していた保険の遺族金のみであった。 母は何度も自分の両親や兄妹にお金の援助をして欲しいと泣きついたが、誰も手を差し伸べてくれる者はいなかった。     仕方なく母は生活の為に家を手放し、親子3人小さなアパートでの暮らしが始まった。働いた経験が殆ど無かった母は昼はパートのレジ打ち、夜は数時間だけ水商売の仕事に手を出さざるを得なかった。そして残された静香と正人は2人きりで夜を過ごしていた。 ある夜の出来事だった。静香と正人が留守番をしていた時、上の階に住む住人が火の始末を怠って家事になってしまった。 アパートは焼け落ちてしまったが、階下に住んでいた静香と正人は何とか消防に助けられた。しかし、幼い子供を残して家を空けていたということで母は世間から大バッシングを受け、精神を病んでしまった。それを見兼ねた母の両親がようやく救いの手を差し伸べて来たが、条件付きだった。 静香を長男夫婦の養女にするので引き渡せと言う残酷な物だった。さもなければ援助はしない、勝

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   5-24 バレンタインその後 2

    シャワーを浴びて部屋に戻るとメッセージが届いている。「朱莉さんからだな」『お仕事お疲れさまでした。チョコレートお口にあったようで良かったです。おやすみなさい』「朱莉さん……お休み」そしてスマホの電源を切ろうと思った時、翔はまだ1通メッセージが届いていることに気が付いた。それは知らないアドレスだった。「何だ? 迷惑メールか?」そのままゴミ箱にメールを捨てようとしたとき、メールの題名にふと目がいった。「な……何なんだ……? この題名は……」そのメッセージの題名には自分の名前が書かれていたのだ。『鳴海翔へ』「俺の名前……? 一体何て書いてあるんだ……?」翔はメッセージをタップした。『鳴海翔はバレンタインの夜に女性とデートを楽しんだ。画像ファイルを見ろ』「何だって!?」(馬鹿な……! 一体誰がこんなメッセージを……うん?)そのメールには確かに添付ファイルが添えてある。(一体……この画像は何が写ってるんだ…?)翔は震える指先で添付ファイルを開いた。そこには先程の女性記者と翔が食事をしている写真だった。この食事はインタビュー目的……いわゆる仕事の一つだったのに、画像だけ見れば翔が楽し気に食事をしている姿にも見える。(だ、誰だ……? 俺にこんなメッセージを送りつけてくるとは。これで二度目だ。俺を脅迫しているのか……? くそっ! 一体誰がこんな真似を……!)翔は悔し気に髪をかき上げ、ソファに座りため息をつきながら改めて画像を見直した。「この写真から見ると俺の左後ろ側から撮っているな……。監視カメラはついてないだろうか? 明日にでもこの店に確認をしてみよう」(どこのどいつか知らないが、必ずこのメッセージを送りつけてきた人物を見つけてやる……) その頃——朱莉は蓮の為に手作りスタイを作っていた。(そうだ。レンちゃんの為にベビー服を作ってあげようかな。明日にでもネットでミシンを見てみよう)そしてベビーベッドでスヤスヤと眠っている蓮を見た。朱莉は今幸せで一杯だった。こんなに穏やかな気持ちになれたのはまだ父が生きている時以来だった。父がいて、母がいて……3人で仲良く暮らしていたの時以来の充実した気持ちでいられるのはすべて蓮のお陰だった。(後4年もしくは3年……それまではこの幸せを噛みしめて生きていこう……)そして朱莉はスタイを1枚縫い

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   5-23 バレンタインその後 1

    「鳴海様、今日はインタビューありがとうございました」店を出ると女性記者は翔にお礼を述べてきた。「いえ、こちらこそ中々予定が取れずにすみませんでした」「それにしても……」女性記者は意味深に笑う。「?」「いえ……まさか、よりにもよってバレンタインの日にインタビューが重なるとは思いませんでした」「は、はあ……。そうですね。秘書にスケジュールを管理して貰っていますので、正直こちらも驚きました」「いえ、デート気分を味わえて良かったです。でもそう言えば……」「どうかしましたか?」「あの、実は私たちのテーブルの近くで若いカップルが座っていたんですけど、男性の方が女性を置いて席を立って飛び出して行ってしまったんですよ。あれには少し驚きましたね」「え? そんなことがあったのですか?」「ええ、鳴海様は背を向けて座っていたので気付かれなかったのでしょうね……。可愛そうに。そのお嬢さん泣きながら店を出て行ったんですよ」「……それは酷い話ですね……」翔はうなるように言った。「あ、申し訳ございません。お仕事とは関係ない話をしてしまいましたね?」「いえ。それでは私はここで失礼いたします」「はい。私はここから電車で帰りますので。次号の記事を楽しみにしておいてください」「「失礼します」」互いに礼を言うと女性記者は駅に向かって歩いていった。翔はその後ろ姿を見送ると、踵を返してタクシー乗り場へ向かった。タクシーに乗ると翔は行先を告げ、窓の外を眺めながら思った。(しかしまさかあの姫宮さんがバレンタインの日に女性記者とのインタビューの予定を入れるとは思わなかった……。ひょっとして疲れでも溜まって間違えたのかな?)別にバレンタインだからと言って朱莉と何か約束をしていたわけではないが、バレンタインに女性とレストランで食事は何故か朱莉に申し訳ない気がして、罪悪感を抱いていたのだ。(女性記者と今日食事をしたことは……朱莉さんには黙っていよう)しかし、この時の翔はこれが騒動を引き起こすことになるとは思ってもいなかった――****  ——22時半翔は玄関に入ると郵便受けに紙袋が入っているのを見つけた。(何だろう……?)翔は紙袋の中を覗いて驚いた。そこには上品な皮の手袋と手作りらしきチョコが入っていた。中にはメッセージカードも添えられている。翔はメッセ―ジカー

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   5-22 バレンタインの恋人 2

    朱莉は航をじっと見つめると尋ねた。「航君、クリスマスイブの日に姫宮さんに何て言われたの? 私、何も聞かされていなくて……」「あ……そ、それは……」(駄目だ……姫宮が俺をストーカーにし立てあげたって話をすれば朱莉は気にするに決まっている……!)航が言い淀んでいると朱莉は続けた。「絶対翔先輩に航君とのこと追及されるかと思ったのに、何も言ってこなかったんだよ? だから恐らく姫宮さんは翔先輩が納得のいく理由を説明したのかもしれないけど……。その内容がどんなだったのか私には分からないの。もしかして一方的に航君を悪者扱いしたんじゃないの?」朱莉は心配そうな顔で航を見た。「そ、そうだ! 今夜俺がここに来たのは……朱莉! 鳴海翔のことをお前に伝える為に来たんだよ!」「え? 翔先輩のこと?」「そうだ。俺……実は今夜店で偶然に鳴海翔に会ったんだよ。そこはいかにも高級そうな店で、バレンタインと言うこともあってか、すごく混んでいたんだ。そしらアイツ……今迄見たことも無い女と2人で店に来ていて……一緒に酒迄飲んで楽しそうに食事をしていたんだよ!」「翔先輩が女の人と食事……?」朱莉は首を傾げた。「ああ! そうだ!」「そうなんだ……」朱莉はそれだけ言うとコーヒーを飲んだ。航は朱莉の落ち着いた態度が腑に落ちなくて尋ねた。「お、おい……朱莉……。お前、何とも思わないのか?」「うん。だって私と翔先輩は書類上の夫婦とういうだけの関係だし、私の立場では何も言う資格は無いもの。翔先輩が何処でどんな女性と会っていても口を挟める立場では無いから」「朱莉……?」航は朱莉が妙に落ち着いている姿が信じられなかった。(何故だ? 朱莉……お前、鳴海翔のこと好きだったはずだろう? でもこの反応からすると今は違うってことか……?)「むしろ、明日香さんの方が翔先輩に物を言える立場だと思うの。だけど明日香さんとの関係もこじれてしまっているし……」「そ、そうだ! 明日香だ! 明日香だって今別の男と一緒に長野で暮らしているんだぞ!?」「え!? 明日香さんが……? そう、やっぱり……。あまりにも長く戻って来ないから何となく予想はしていたんだけど……」朱莉は寂しそうに俯いたが、すぐに顔を上げた。「でも何故航君がそのことを知ってるの?」「実は…以前頼まれたんだよ。京極の奴に…」「えっ!

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